だけどその言葉を受け入れてくれる彼女はもう此処にはいなくて、
聞き慣れていい慣れた台詞だった。愛してる、愛してる。その言葉を何度も何度も鳴き続ける彼は暖かな温もりを探し求めているだけの小動物のようにもみえた。
紅く紅く滲む染みと印。どの色にも染まらなくてどの色にも染められない銀髪と淡紅色の瞳。造られた彼女と同じ顔のあたし。痛む穴の空いた心。抱き寄せられて耳元で囁かれる無意味な言葉達。唇や首筋を伝う生温かい感覚。
これも仕事の一つだと思えば苦痛ではなかったし嫌いじゃなかった。重労働を強いられることもなく、ただ椅子やベットに腰掛けているだけの仕事だから。何より彼はあたしを大切に扱ってくれるし。いつまでも彼女を待ち続けながら薄暗い倉庫で仕事をし続けるあの旧式よりもずっと楽で幸せ。
ただ、彼女もあたしと同じことを、いや……それ以上のことを彼にされていたのだと思うとひどく吐き気がして苦痛だった。あたしだって何も知らないわけじゃないから。
彼はあたしを愛しているのではなく、彼女を愛している。あたしは彼女の代わり。あの言葉達も行動もはあたしに向けているのではなく、彼女に向けている。彼女と同じ顔のあたしに告げることで、彼女に告げているのだと錯覚しているのだろう。
「考えごと?」
母親に甘える子供みたいにささやいた彼に何も答えずににっこりと笑ってみせた。それは多分、彼が求めていた彼女の笑みと同じだったのだと思う。強引に深く口付けをされて押し倒されて。
どうしてあたしなんだろう。あたしは時々、今はもう存在しない彼女に嫉妬する。
あの旧式のなにがよかったの? 彼と比べたらいいところなんて一つもないじゃない。彼はこうやって愛してくれたんでしょう?
あの旧式は古臭くて、根暗で。あの倉庫でただ独り誰からも感謝されない仕事をしているだけの機械なのに。
快楽を感じられない身体を少しだけ疎ましく感じながらあの旧式のことを考えているあたしがいた。
以下反転であとがき >2008/11/30
彼女の代わりという立場に混乱しつつもどうすることもできないあたし。
彼はそれを知らなくてあたしが彼女の代わりということも忘れてる。
そのむかしサイトに展示していた小説のその後というか修正版みたいな。ヒューマノイドを愛した男性の話でした。